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2017年3月12日 民進党・2017年度定期大会来賓挨拶 慶応大学経済学部 井手英策教授(文字起こし)

民進党・2017年度定期大会来賓挨拶 慶応大学経済学部 井手英策教授(文字起こし)  https://www.youtube.com/watch?v=fE0jOpOA9IU&feature=youtu.be  いまご紹介をいただきました慶応大学の井手英策でございます。お作法から申し上げればですね、貴重な機会を頂戴いたしまして、ありがとうございますと、お礼を申し上げなければならないところなんですけれども、今日はまったくその気はございません。  普遍的な審理を追い求めている研究者、それが特定の政党を応援するためにこの場に来る。非常に勇気のいることでありますし、はっきり申し上げれば、恥ずかしいことだと思っております。だからこそ、いま僕が抱きしめている悩みや葛藤、熱い思いのようなものを皆さんにお伝えさせていただきたいと思っております。  いまご紹介にありましたように、今回僕が呼んでいただけたのは、蓮舫代表のご指示の下、設けられました前原誠司先生を会長とする「尊厳ある生活保障総合調査会」のアドバイザーをやっているということ、この理由に尽きていると思います。  正直に申し上げます。僕がこの仕事をお引き受けさせていただくということを知った友人たちは口を揃えて、もう民進党はだめだからやめろ。もっといろんな政党といい関係をつくった方が井手さんのためだ。そのように言われました。しかしながら、それらの助言は僕の心にまったく、まったく響きませんでした。  まず第一に、僕なんかのために三顧の礼を尽くしてお声かけくださったのが前原先生でありました。マニフェストや個別の政策ではありません。あるべき日本の姿、民進党の寄って立つ社会像・国家像。そういうものを示すために、どうか力を貸していただけませんか、そうおっしゃっていただきました。まさに僕自身が学者としての一線を乗り越えて腹をくくると決めた瞬間の出来事でありました。  勝てる勝負。強い者の応援ならば、誰にだってできます。しかし、そんなものは僕にとってまったく何の価値もないことです。一介の学者に向けられた政治家の熱い思いに応えよう。強い者に、もがき苦しみながらも、立ち向かおうとする民進党の皆さんとともに、国民が夢を託すもう一つの選択肢をつくることができる。こんなに愉快なことがありますか。 ...

2017年3月8日、衆議院厚生労働委員会での参考人招致:川人博弁護士の意見陳述(文字起こし)

 弁護士の川人と申します。私は30年以上にわたり過労死の問題に取り組んでまいりました。また、電通の女性社員・高橋まつりさんのご遺族の代理人を現在勤めております。  本日はこれらの経験に基づき長時間労働の規制について意見を述べたいと思います。  わが国の長時間労働は二つの方法、手段によって発生していると思います。一つは非合法な労働時間隠しによってであります。もう一つは、36協定などによる合法的な手段によってであります。  で、長時間労働を規制するためにはこの二つの問題に対する対策が必要であると考えます。  まず、はじめに長時間労働の隠ぺいと言いますか、労働時間を隠すという問題について述べたいと思いますが、ほとんどの過労死の事案において実際の労働時間というのは、名目上の労働時間、会社が公認している労働時間と異なっているわけであります。  高橋まつりさんの事件に関して言えば、会社は会社公認の残業時間としては1カ月70時間未満としていたわけであります。しかしながら実際には、労働基準監督署が認定した範囲でもですね、法定外の労働時間が100時間を超えていたということです。  で、先日、ヤマト運輸がですね、全社的に、全国的に多くのサービス残業があったこと、不払い残業があったことを認めてですね、過去にさかのぼってそれを支払う、そういう方向を出しました。  で、これはですね、不払い残業があったということは、言い換えるとですね、労働時間隠しが行われていたということでもあるわけですね。  加えて、皆さん方に強調しておきたい点は、現在、中間管理職の時間外労働がとても厳しくなっているという報告を受けております。つまりですね、昨年秋以降の電通事件の報道等によって、中間管理職には早く新人を返すように指導しなさいと、こういうことが役員から指示が下りてくるわけです。  その結果、どうなっているかというと、若い1年目の人、2年目の人は、とりあえず労働時間が減っているところもあるけれど、中間管理職、マネジャーのような立場の人たちの労働時間がとても増えているということがあります。  問題はですね、なぜこういうことが起こるかというと、現在中間管理職に関して、多くの会社が労働基準法の41条の管理監督者の規定をですね、乱用して、誤って使っ...

2017年3月8日、衆議院厚生労働委員会での参考人招致:全国過労死を考える家族の会・寺西笑子さんの意見陳述(文字起こし)

 過労死を考える家族の会、寺西笑子と申します。本日は貴重な場を与えていただきまして感謝申し上げます。また、 2014 年 5 月には衆院厚生労働委員会において、全会一致で過労死等防止対策推進法を可決・成立させていただき、誠にありがとうございました。  本日は、過労死遺族の立場、また、遺族から相談を受けるものの立場として、意見を申し上げます。  全国過労死を考える家族の会は、 1991 年、結成以来四半世紀以上にわたり過労死の根絶を願って活動を行ってきました。繰り返されている過労死に歯止めをかけたい思いから、過労死防止法の制定に取り組み、制定後は過労死等防止対策の推進に全力を尽くしております。  過労死をなくすには、その温床になっている長時間労働を法的に規制することが急務と考え、私たちは政府の働き方改革の動向を見守ってきました。そうしたところ、報道では来る 3 月 17 日、働き方実現会議にて、政府の事務局案を示す。年 720 時間、さらに繁忙期は単月で100時間、複数月で月80時間という過労死ラインが書き込まれるのではないかと予想され、私たちは危機感をもって、募らせています。万が一予想される、政府の事務局案が法律になると、一日の規制も、一週間の規制もないために、毎日5時間の残業や10時間の残業が続いても違法ではないという恐ろしいことになります。  その上、政府は、長時間労働を助長する高度プロフェッショナル制度の創設と、企画業務型裁量労働制の拡大をセットにして、働き方改革を押し通そうとしています。私たちは過労死防止を願う立場から、単月100時間、年720時間および高度プロフェッショナル制度の創設と、企画業務型裁量労働制の拡大は、過労死を生み出す、長時間労働を許容するものになりますので、反対するものです。特例を認めない残業のまともな法的上限規制に踏み出すことを強く求めます。  続いて、具体的な事例に即して意見を述べさせていただきます。家族の会の会員 A さんの夫は40歳で過労死されました。仕事は外回りの営業職でした。早朝勤務とお客に合わせて夜の商談や休日出勤をされていました。  亡くなる前の6ヶ月間は月平均80時間以上でしたが、会社が労働時間管理をしていなかったこと、就業規則に休憩2時間と明記されていたことで、実際に働いた時...

緊急事態条項は必要か

2月5日の立憲デモクラシーの公開シンポジウム「緊急事態条項は必要か」はとても公共性の高いものだったと思います。何しろ国の最高法規にかかわるものですし。公共性の高さと自分の勉強のために冒頭の長谷部先生のセッションを自分なりにまとめました ツイッターに連投しようかと思って文章を作っていたら長くなってしまいました 長谷部先生は「緊急事態条項」は不要ときっぱりと断言された。それにはいくつかの論点があった。一つはテロ事件があったフランスの事例。フランス政府が現在発令している非常事態宣言は、1955年の法律に基づくもので憲法とは無関係ということ。 次にフランス憲法16条には緊急事態条項があるが非常に使いづらい規定ということ。発動するには国の独立、領土の保全などが重大かつ直接に脅かされかつ公権力の適正な運営が中断されるというように厳しい要件があり、過去一度アルジェリア軍の反乱の際にしか用いられていない 同じくフランス憲法36条に戒厳令に関する規定がある。これは軍に治安維持と裁判・司法の機能を委ねるもの。いまどきこのような規定が使われることがない。過去に一度も発動されたことがない。このことからフランスの非常事態宣言はあくまで法律上の措置である テロ事件を受けてフランス政府は憲法改正を検討しているが、これはテロ犯罪で有罪とされた者が二重国籍保持者である場合にフランス国籍を剥奪する規定を憲法に盛り込むものであり二重国籍を認めない日本とはあまり関係がない ドイツはボン基本法に防衛上の緊急事態条項がある。だが、これはドイツが連邦国家だから存在する条項。ドイツは立法・行政の権限が州政府に分割されているので緊急時に州の権限を連邦に吸い上げる必要がある。連邦制ではない日本とは無関係である。 日本には災害対策基本法や有事法制など、現時点でこれくらいのものが必要ではないかとするものは、すでに法制化されている。これ以上何か立法が必要であるのならば、国会で新たに立法すればよいだけのことである。 さらにその内容も刑事手続上の身柄の拘束期間を若干延長するといった極めて限定的なものであり、特別な権限を発動するときは連邦の憲法裁判所がきちんとコントロールすべきという定めをおいている アメリカ合衆国憲法には緊急事態や非常事態に関する条項が極...

講演のメモから:立憲主義と新9条論と9条削除論

立憲主義と民主主義は必ずしも協調しない。むしろ緊張関係にある。 民主主義とは権力を作り出すこと、権力が行使されるということであり、積極的な作用がある。 一方、立憲主義は政治権力を抑制する。権力に対してブレーキをかけるネガティブな要素がある。このように立憲主義と民主主義には緊張関係があるということであり、繊細な働きかけが求められるということである。 こうした観点に立つと、改憲論とは民主主義の側から出てくるになる。ここに注意する必要がある。 改憲論では96条の改憲がまず持ちだされたが、この前後から憲法を改正するということは、民主主義的であるという論点が出てきた。大阪の橋下元市長が、改憲とは民意を聞くことであるとした。 改憲手続きは、そもそも国民は発議をすることができないシステムになっている。3分の2以上の国会議員による発議が必要である。今のように首相が先頭に立って改憲を訴えるのはどういうことかを考える必要がある。 国民投票の類型には、国民からの要求が反映された「レファレンダム」と、政治家が上から動員する「プレシビット」という類型がある。今回の動きは後者にあたる。 私たちの体制は純粋なデモクラシーとはいえない。社会のシステムの中に権力の暴走を抑える仕組みが内在されている。 橋下元市長は憲法をどんどん改定すべきだというが、そうではなく、もう少し良く考えて、法律のようにコロコロ変えるのではなく、どうしてもという時だけ変更するというようにしたほうがよいのではないか。 そうすると、そうしたブレーキは反民主主義ではないかという反論がある。しかし、そもそも私たちの社会は民主主義と立憲主義の混合的体制、ハイブリットにできているものなのである。 そのうえで、現在の憲法改正議論をどのように捉えたらよいか。憲法改正の限界という論点がある。 憲法を改正するには二つの方法がある。一つは、憲法の規定に従った通常の改正。もう一つは、まったく違う憲法をつくることだ。 大日本帝国憲法から日本国憲法への改正はこのどちらにあたるのか。たしかに、手続き上は国会を通じて改正されたが、天皇から国民に主権者が変わるという大きな変化があったことから、「8月革命」説という説明もなされてきた。 憲法は自分を壊すような改正をすることはできない。根本的に変えることを迫られる事態に...

15ドルを求める闘い

●メモ ステファニー・ルースさん(ニューヨーク市立大学マーフィー研究所)の講演より2015年11月11日   2000年に来日したときにワーキングプアの広がりについて話した。15年後も同様にワーキングプアが世界的に広がっている。先進国ですら多くの貧困状態の労働者がおり、大企業でも低賃金労働者が増えている。  近年では「ゼロ時間契約」という雇用形態もある。このような雇用形態の代表格がウォルマートである。ギャプやマクドナルなどほかにもこうした雇用形態を用いる企業はたくさんある。  低賃金労働はファストフードや販売の仕事だけでなく、医療などの他業種にも広がっており、最近では高学歴の医者や弁護士にも増えてきた。  こうした問題はなぜ起きているのか。お決まりの説明は、「テクノロジーの進化」と「労働者のスキル不足である」。  しかしデータを分析すると、最も増加している職業は学歴やスキルを求められていない仕事である。米国では増加するトップ20の職業のうち高卒以上の学歴が求められる仕事は5つしかない。そのほとんどが訓練の必要のない仕事ばかりである。  テクノロジーが進化したから雇用の質が高まるというわけではない。  一方、製造業からサービス業への転換が低賃金労働の要因として語られる。たしかに産業の転換は生じている。しかし、それが低賃金である必要はない。デンマークのマクドナルドとアメリカのマクドナルドでは時給がことなる。米国内でも労組がある州とそうでない州とで時給が異なる。  製造業はかつて危険で低賃金の仕事だった。それを持続可能にできたのは、法と労働組合の活動によるものだ。  雇用が劣悪化する要因は、スキルと産業構造の転換とは無関係。もう一つの原因はグローバル化だ。これには真実がある。  企業は労働者が賃金引き上げを要求したり、労働組合を作ろうとしたら、海外に職場を移転すると威嚇してきた。  労働者の分断のために移民労働者を利用してきた。そして投資協定を締結し、企業の権利を強化し、労働者の権利を弱めてきた。  こうしたグローバル化は、ポジティブなグローバル化ではなく、経済の新自由主義化である。そのもとで、民営化、金融化、規制緩和、緊縮財政が用いられてきた。  「柔軟性」は、その一つの指標である。柔軟性は労働者に一見聞こえがよいが、政策...