15ドルを求める闘い

●メモ
ステファニー・ルースさん(ニューヨーク市立大学マーフィー研究所)の講演より2015年11月11日
 

2000年に来日したときにワーキングプアの広がりについて話した。15年後も同様にワーキングプアが世界的に広がっている。先進国ですら多くの貧困状態の労働者がおり、大企業でも低賃金労働者が増えている。

 近年では「ゼロ時間契約」という雇用形態もある。このような雇用形態の代表格がウォルマートである。ギャプやマクドナルなどほかにもこうした雇用形態を用いる企業はたくさんある。

 低賃金労働はファストフードや販売の仕事だけでなく、医療などの他業種にも広がっており、最近では高学歴の医者や弁護士にも増えてきた。

 こうした問題はなぜ起きているのか。お決まりの説明は、「テクノロジーの進化」と「労働者のスキル不足である」。
 しかしデータを分析すると、最も増加している職業は学歴やスキルを求められていない仕事である。米国では増加するトップ20の職業のうち高卒以上の学歴が求められる仕事は5つしかない。そのほとんどが訓練の必要のない仕事ばかりである。
 テクノロジーが進化したから雇用の質が高まるというわけではない。

 一方、製造業からサービス業への転換が低賃金労働の要因として語られる。たしかに産業の転換は生じている。しかし、それが低賃金である必要はない。デンマークのマクドナルドとアメリカのマクドナルドでは時給がことなる。米国内でも労組がある州とそうでない州とで時給が異なる。

 製造業はかつて危険で低賃金の仕事だった。それを持続可能にできたのは、法と労働組合の活動によるものだ。

 雇用が劣悪化する要因は、スキルと産業構造の転換とは無関係。もう一つの原因はグローバル化だ。これには真実がある。

 企業は労働者が賃金引き上げを要求したり、労働組合を作ろうとしたら、海外に職場を移転すると威嚇してきた。
 労働者の分断のために移民労働者を利用してきた。そして投資協定を締結し、企業の権利を強化し、労働者の権利を弱めてきた。
 こうしたグローバル化は、ポジティブなグローバル化ではなく、経済の新自由主義化である。そのもとで、民営化、金融化、規制緩和、緊縮財政が用いられてきた。

 「柔軟性」は、その一つの指標である。柔軟性は労働者に一見聞こえがよいが、政策立案者にとって、競争力強化の手段である。その基本は解雇しやすいということ。雇用のコスト/リスクを労働者に転換するということである。

 「柔軟性」とは、労働組合に対する攻撃、正規雇用から非正規雇用への転換、個人請負、ジャストインタイムの時間管理などをもたらす。

 労働者はこれにどう対応してきたか。いわゆる「南の世界」は、ずっと戦ってきた。その最初は1994年のNAFTA協定の実行の日からサパティスタ国民軍の運動だったと認識している。

 新自由主義に対抗する運動は90年代以降、米国で生活賃金運動として広がり、99年のシアトルでの反グローバル運動につながった。当初バラバラだった運動が徐々に一つにまとまり始めた。リーマン・ショック後は反緊縮の運動が盛り上がり、08年から数年間は抵抗できずにいたが、2011年から運動の前進力が増してきた。

 アラブの春やウィスコンシン州での大規模抗議、オキュパイウォールストリート運動が起こり、政策立案者や経済学者ですら、格差の問題について考え始めた。

 2012年からはニューヨーク市のファストフード労働者が最低賃金の15ドルへの引き上げと組合結成の権利を要求する運動を展開した。
 これに倉庫労働者やウォルマート労働者もともに立ち上がり、ウォルマート労働者は1930年台の自動車労働者と同じように座り込みストを決行した。

 これらの運動が多様な運動と連携している。最近では黒人に対する警察の暴力が問題となっている。「黒人の命は大切だ」運動と最低賃金引き上げ運動が連携するようになった。


 その結果、多くのケースで労働者が勝利を勝ち取っている。
①市や州での最低賃金引き上げ
②企業での賃金の引き上げ
③電話の呼び出し勤務の廃止
④小売労働者の権利条例(サンフランシスコ市)などである。
 過去3年間の運動は素晴らしい成果を上げている。

 生活賃金キャンペーンも市全体の賃上げと連携し、劇的な変化を遂げている。

 最低賃金引き上げにより、雇用の減少を懸念する人もいる。現在のところ未知の領域である。しかし15ドルの最低賃金は妥当であり、雇用の減少にはつながらないと考えている。

 労働者が求める15ドルという水準に確たる根拠はない。10ドルだと労働者の納得性がなく、20ドルだと現実的に高すぎるから15ドルとなった。

 これまでの運動を総括すると、
1)多くの労働者の実質賃金が改善している
2)新自由主義思考に対する挑戦が始まっている
3)経済学者と政策立案者の思考が変化している
4)エリート層へのコンセンサスも広がっている。つまり規制のない資本主義は持続不可能だという点だ。だからより幅広い社会運動が建設されている。

 しかし、依然として懸念はある。
 1)勝利の波は賃上げのみであり、労働組合をつくる権利の要求は前進していない
 2)賃上げのみを強調することで、有業者と無業者を分断する戦略に注意が必要である。無業者や失業者があたかも悪いかのように見えてしまう。
 3)貧困の犯罪化が進んでいる
 4)十分な労働時間が確保されず、安定した雇用はない
 5)実効性に懸念がある

 さらに緊縮策は、公共部門に対する攻撃を強めている。TPPなどの手段を通じて企業はますます力をつけている。政治家より企業の方が強くなる。

では次になにをすべきか。
 最低賃金引き上げと不安定雇用をなくす取り組みは継続していく。
 各国の労働者に共通するのは仕事を失う恐怖である。

 本当の問題は、最低賃金を15ドルにすることでも、労働時間を長くすることでもない。労働者が自分の働く時間や優先事項を管理できること。何を作り、どう消費すべきかを労働者自信が決められることである。
 なぜ人は働くのか。経済はなぜ必要なのか。現在の資本主義に代わる人間中心の経済モデルが必要である。

●質疑からメモ

オキュパイウォールストリートの運動が大きかった。ファストフードは販売の仕事より危険で低賃金だ。労働者に不満や格差に対する怒りがあった。

人種問題でコンセンサスを生み出すのは困難である。階級問題は政治家は異なるが、共和・民主党員とも共通している。
人の意見は急に変わることがある。若年層が職場の運動に参加したことで関心をもつこともある。

賃上げだけでなく、フリーハウジングや無料保育、交通量の無償化などが必要だ。全てを雇用につなげるのはよくない。無職の人にもセーフティネットが必要だ。

最低賃金引き上げ運動は労働組合を強くした。

経済の決定に関して、民主的な声が反映される経済制度が必要。重要なのは誰が決めるのかということ。


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