2017年3月8日、衆議院厚生労働委員会での参考人招致:全国過労死を考える家族の会・寺西笑子さんの意見陳述(文字起こし)

 過労死を考える家族の会、寺西笑子と申します。本日は貴重な場を与えていただきまして感謝申し上げます。また、20145月には衆院厚生労働委員会において、全会一致で過労死等防止対策推進法を可決・成立させていただき、誠にありがとうございました。

 本日は、過労死遺族の立場、また、遺族から相談を受けるものの立場として、意見を申し上げます。

 全国過労死を考える家族の会は、1991年、結成以来四半世紀以上にわたり過労死の根絶を願って活動を行ってきました。繰り返されている過労死に歯止めをかけたい思いから、過労死防止法の制定に取り組み、制定後は過労死等防止対策の推進に全力を尽くしております。

 過労死をなくすには、その温床になっている長時間労働を法的に規制することが急務と考え、私たちは政府の働き方改革の動向を見守ってきました。そうしたところ、報道では来る317日、働き方実現会議にて、政府の事務局案を示す。年720時間、さらに繁忙期は単月で100時間、複数月で月80時間という過労死ラインが書き込まれるのではないかと予想され、私たちは危機感をもって、募らせています。万が一予想される、政府の事務局案が法律になると、一日の規制も、一週間の規制もないために、毎日5時間の残業や10時間の残業が続いても違法ではないという恐ろしいことになります。

 その上、政府は、長時間労働を助長する高度プロフェッショナル制度の創設と、企画業務型裁量労働制の拡大をセットにして、働き方改革を押し通そうとしています。私たちは過労死防止を願う立場から、単月100時間、年720時間および高度プロフェッショナル制度の創設と、企画業務型裁量労働制の拡大は、過労死を生み出す、長時間労働を許容するものになりますので、反対するものです。特例を認めない残業のまともな法的上限規制に踏み出すことを強く求めます。

 続いて、具体的な事例に即して意見を述べさせていただきます。家族の会の会員Aさんの夫は40歳で過労死されました。仕事は外回りの営業職でした。早朝勤務とお客に合わせて夜の商談や休日出勤をされていました。
 亡くなる前の6ヶ月間は月平均80時間以上でしたが、会社が労働時間管理をしていなかったこと、就業規則に休憩2時間と明記されていたことで、実際に働いた時間が認められず業務外判断になりました。

 奥さんは育ち盛りのお子さんを3人抱え、夫に変わって大黒柱になり、生計を立てながら、諦めることなく、夫の手帳を頼りに取引先や会社関係者など十数人の人と会って、労働時間の事実を積み上げ、苦労して、月平均80時間の残業時間を立証し、何年もかかって労災認定されました。

 2人目、Bさんの夫は37歳でお子さん二人を残し過労死されました。仕事は組み立て工場の変則勤務をされていたため、生活のリズムが大きく崩れたのが原因です。実際の労働時間が認められず、行政裁判をされ、高等裁判所にて月平均85時間の残業がやっと認められ、労災認定されました。こういう方はぜひインターバル制度を導入していただきたいと思っています。

 3人目、Cさんの息子さんは27歳の若さで過労死されました。入社2年目から専門業務型裁量労働制の適用対象者になりました。規定で、22時以降の残業は許可がいることで、息子さんが自主申告すると、上司に殴られたそうです。その後、帰ったことにして仕事をしていたと見つかっています。
 サービス残業をしないと仕事が回らない、毎日深夜の帰宅とのメールがありました。亡くなる前、繁忙期100時間超え、複数月80時間超えの勤務があり、ご両親が原告になり、今係争中であります。

 このように使用者が正しい労働時間を適正に把握していないため、過労死なのに、なかなか認定されない実態があります。またこれはあくまで認定された労働時間であります。実際にはこれをはるかに超える実質的な拘束時間があったものと推察されます。

 ここでご理解いただきたいことは体力のある20代、30代、40代の男性が、単月100時間あるいは月平均80時間の残業をすると過労死するという現実を認識していただきたいのであります。

 月80時間の残業は週20時間、1日4時間の残業になり、それプラス所定労働時間と休息時間を入れると、少なくとも1日13時間以上拘束されます。月100時間なら週25時間、1日5時間の残業、1日14時間以上も拘束され、通勤時間と生活時間を入れると、睡眠時間はごくわずかになり、いつ倒れても不思議ではありません。

 月80時間、100時間という過労死ラインで働くと命が奪われかねないということもご理解ください。

 私事ですが、夫は21年前に過労自死しました。飲食店の店長だった夫はサポート体制がない中、達成困難なノルマを課せられ、月100時間超えの残業を強いられました。必死の努力で一定の成果を挙げましたが、会社が命令した成果に届かなかったため、過度の叱責を受け、人格否定され、身も心も疲労困憊になり、うつ病を発症して、飛び降り自殺を図りました。

 裁判でわかったことは会社に義務付けれている健康診断は一度も実施せず、36協定を結ばず、長時間労働させ、夫は仕事の裁量もなく、固定残業代で、長時間働かせ放題の名ばかり管理職だったということが明らかになりました。

 会社は目先の利益を追求し、守らなければならない法律をまったく守らない会社でした。夫は、会社利益のために、睡眠時間と家族と過ごす時間、自分の自由な時間を犠牲にして会社に尽くしました。その見返りが過労自死だったのです。夫の無念を思うと悔しくてなりません。

 なんとか過労死を減らしたいのですが、しかしながら過労死は今もなお増え続けており、相談者が絶えることはありません。

昨年11月、全国過労死を考える家族の会に労災認定を求める要請行動は18名が個別要請しました。その中で、20代、30代、40代前半の被災者が18人中16名おられました。特に深刻なのは若者の自死が多いことです。20代の男性は、入社して数ヶ月で自死されました。30代の男性は企業の合併などの転籍後、数ヶ月で自死されました。その原因と背景に長時間労働と上司のパワハラがありました。

 日本の未来を担う若者を使い潰すようでは、日本の未来をなくします。労災申請しても遺族が立証するには限界があるため、こうした高い壁に立ちはだかり、泣き寝入りする遺族がほとんどです。労災申請される過労死全体のご遺族は氷山の一角であります。

 私たちはこれ以上過労死生み出さないでほしいと願い、2014年に、わたくしはこの衆議院厚生労働委員会で意見陳述し、過労死防止法を成立させていただきました。まさか3年後に過労死ゼロどころか、過労死を助長する月100残業合法化の法改正や、労働時間規制を緩和する高度プロフェッショナル制度や、裁量労働制拡大の法改正が国会に提出されているのは理解に苦しみます。向かう方向が逆であります。

 何のための過労死防止法だったのでしょうか。過労死ラインの残業時間の上限が法制化されたら、一歩前進なんてわたくしはまったく思っていません。今一度、全会一致で成立させていただいた過労死防止法の原点に戻っていただきたい。過労死防止法を踏まえれば、月100時間の過労死ラインまで残業を合法化するのは、到底ありえません。


 上限はできるだけ低くしていただきたいです。命より大切な仕事はありません。過労死防止は全国の過労死遺族の涙と汗の結晶です。私たちはこれからも過労死ゼロをめざして努力してまいる所存です。これでわたくしの意見陳述を終わります。ご静聴ありがとうございました。

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